そこは,とあるジュースの自動販売機の中。
10円玉のじゅうべえと,100円玉のぎんじろうが話をしてました。
「なあ,ぎんちゃん。」
『どうしたの?じゅうくん。』
「ボク,どうして10円玉に生まれてきたんだろう?」
『どういう意味だい?』
「だってどうせ硬貨に生まれてくるなら,10万円金貨みたいなきれいな硬貨になりたかったな。」
『どうして?』
「人々にありがたがられるじゃない。」
『う~ん。どうかなあ。』
「少なくとも10円よりは価値があると思うよ。」
『たしかに金額的な価値はそうかもしれないけど,オレは嫌だなあ。』
「どうして?」
『だってあんな硬貨になったら,どこにも行かれなくなるよ。どこかの家の額に入れられてさ。反永久的にずっと同じ風景を見るだけだよ。』
「あ・・・そうか。そうだね。」
『キミは昨日ここに来たけど,ここに来る前はどこにいたの?』
「サラリーマン風の人の財布の中にいたよ。3日間くらいかな。」
『その前は?』
「コンビニのお弁当のお釣りとしてサラリーマンの財布に入ってたから,コンビニかな。」
「でもコンビニにいたのは5時間くらいだよ。」
『じゃあさ,この一週間でキミが見たり聞いたりしたことを聞かせておくれよ。』
「ん~とねえ。ん~。」
「そういえば,コンビニのアルバイトの女の子は,同じアルバイトの男の子と密かに付き合ってたみたい。」
『ふふふ。』
「サラリーマンの人なんて,プロポーズしてたけどフラれてたよ。」
『面白いなあ。』
「そう言われれば,この1年でいろんなところに行ったなあ。」
『そうだろうね。』
『ところでキミは何歳だい?』
「平成三年って書いてるから,23歳!」
「もうずいぶん古くなったよ。。もうそろそろボクはダメになるのかなあ。」
『古くなった?古くなったからってなんだい?』
「だって世の中のモノは古くなると価値が下がるでしょ。だんだん使えなくなるし。」
『あのねじゅうべえ。まずはコレを見てごらん。』
『左から,平成20年,19年,16年』
『そして,平成8年,平成元年,昭和49年だ。』
「やっぱり新しい硬貨は輝きが違うね。」
『輝きが違うからって,それがなんだい?』
『たしかに,世の中のモノは古いモノほど価値が下がる。これは同じお金でも紙幣などはそうかもしれない。』
『だけど,世の中でオレたち硬貨だけは永久に価値が下がらないものなんだ。』
『中でもオレたち10円・100円ってのは本当にいろんなところに連れて行かれて,たくさんの経験ができるんだよ。』
「あ・・・・」
『いくら使われても価値が下がらない。だったら,いろんな経験ができるだけオレたちは幸せ者じゃないか。』
「そうだね。ぎんちゃん。ありがとう。なんだか楽しくなってきたよ。」
『さあ,そろそろ自動販売機から回収される時期になるから,当分は一緒に行動しような。』
「どうやって?」
『それは,じゅうちゃん。誰かのサイフに一緒に入ったら,なるべく近くにいるようにすればいいんだよ。』
「なるほど~」
『もしかしたら,お別れの時が来るかもしれないけど,』
『「きっとまたどこかで会えるね。」』
「そうだね。その時までにいろんな経験をして,たくさん思い出話ができるように憶えておくことにするよ。」
『おっ。来たぞ。回収員だ。」