鞆の沖にある小さな島。
もともと百貫島と言いましたが,今では弁天(弁財天)島と言うそうです。
その島名の由来を,とある本で見かけたので残しておこうと思います。
むかしむかし,近江の国の大そうな武士が,宮島さんにお参りにきたそうな。
その帰りのこと,瀬戸内海の景色があんまり美しいのに見とれてか,武士はうっかり,黄金の太刀を海の中に落としてしもうたんだと。
代々家にまつわる宝じゃけん,それはもうどえらい騒ぎになった。さっそく船は近くの港につけられ,近所の漁師が呼び集められた。
そうして武士は,銭百貫を出すかわりに,海にもぐって刀をとってきてくれるよう,みんなに頼んだんじゃと。
銭百貫と聞いて,漁師たちは急にざわめき出した。
ほんでもな,昔からこの辺の海にはフカがうようよおるんじゃ。みんなフカに食われるのを恐れて,だれ1人,名のり出る者はおらんかった。
ところがそのとき,三郎という若い漁師が,「わしがもぐりまひょう」言い出したんと。
みんなは口々に止めたけんど,それも聞かんで,三郎はひとり海にとびこんでそもうたそうじゃ。
武士も漁師たちも,船の上で,三郎の上がってくるのを今か今かと待っとった。
するとどのくらいたったころじゃろう,急に海の底から,赤いもんが広がるように浮かんできた。
何事かと身をのり出したそのとき,いきなり,ぽっかと刀を口にくわえて三郎が浮かび上がってきたんじゃと。
「おお見事じゃ,早う上がれ」武士はよろこんで,さっそく三郎をひっぱり上げようとした。
ところがのう,三郎はやっとのことで船べりにたどりつき,刀を渡すとそのまんま海の中へ沈んでしもうたそうな。
あわてて助けようとしたら,そのとき,また三郎が浮かび上がってきてな,その三郎のそばを,白い腹を見せた大きなフカが,さーっとかすめ通ったちゅうで。
それっきり,三郎は二度と浮かんでこんかった。
武士は三郎の勇気をたたえ,百貫の銭を出して,近くの小島を買いとった。
そしてそこに塔をたてて,三郎の霊を慰めたという。
この島が”百貫島”と呼ばれるようになったのは,このときからなんじゃ。
次はワタシの町,三成にある浦島神社のことを書きますね。
なんで三成に浦島の伝説があるのでしょう?