9月26日 30年の物語
『30年の物語』(岸恵子/著・講談社文庫)を読みました。 裏表紙の紹介文を引きます。
読書会の今月の課題書ということで読みました。そうでなければ本屋で見かけても手に取ることもなかったでしょう。なぜなら私には偏見があるからです。「俳優」を「作家」の下に置き、俳優になどどうせろくな文章が書けるはずがないと心の底で思っていたようです。俳優は一流の感性を持ってはいても、それを文字で表現するだけの知性を持っていないと思っていました。この本を読んで私の心の奥底に潜む偏見に気づきました。冒頭に引用した文章に触れたとき、私はなんとおろかな偏見に囚われていたのかと自らの浅はかさに恥じ入りました。多彩な語彙をあやつり、激動の時代の光と影、そしてそこに生きる人間の微妙な心の襞を描き出す。本書を読み終えて私は、テレビで見た艶然としたほほえみ、エレガントな立ち居振る舞い、凛とした気品がけっして見せかけではなく彼女の豊かな内面世界と知性の発露なのだと確信する。そして私は「五月革命」「プラハの春」「ヴェトナム」に何も見ない国民、表情が見えず影を持たないという世界の中で極めて異例な国民の一人なのだということを思い知った。 十二篇それぞれが味わい深いが中でも特に「栗毛色(シャタン)の髪の青年」が秀逸である。 |