「おまえは愛というものを知らないんだ」 「愛? 愛なら、わたくし、存じておりますわ」 「そういう性欲を伴う愛じゃないっ。その人を愛しいって思う、ただそれだけのシンプルな愛だっ。それをおまえは知っているのかっ?」 しかし、そんな愛を知っているかどうかという点では、時子自身も怪しいものだった。 「わたくし、愛しいお方には、自然とご奉仕したいと思ってしまうのですが、その『ご奉仕したい』という気持ちを抜きで愛せばよろしいのですね?」 「まあ、そんなところだ。愛しいって思うだけで、その先どうこうしたいは考えるな」 しばらくの間、ハンナは考え込み、それから言った。 「ですが、その『どうこうしたい』を抜きで愛しあうというのは、無意味ではございませんか?」 「そもそも、愛には愛以外の意味などない」 「でも、それでは、物足りのうございます」 ―――結局、こいつはそこに行き着くのか。 (本書P64-65、「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」より抜粋)
『西城秀樹のおかげです』(森奈津子・著/ハヤカワ文庫JA)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。 「ありがとう、秀樹!わたくしとお姉様は、あなたのことを決して忘れませんわ」―謎のウイルスにより人類が死滅した世界で、ひとりの百合少女の野望を謳いあげる表題作、前代未聞のファーストコンタクト「地球娘による地球外クッキング」、1979年を舞台にした不条理青春グラフィティ「エロチカ79」ほか、悩める人類に大いなる福音を授ける、愛と笑いとエロスの全8篇。日本SF大賞ノミネートの代表作、待望の文庫化。 妄想とエロスとギャグがハイブリッドに同居するお笑い系耽美小説であった。 いかん、新幹線車中で読み耽ってしまったぞ。あぁ、「耽る」とはなんとエロティックな言葉であろう。 これはSF小説にカテゴライズしてよいのであろうな。そして心做しか官能小説でもある。いや、可成り官能小説であるぞ。ファンタジーでもあり、ロマンスといえなくもない。それとも風刺ととらえると一見軽薄と思えたものもぐっと深みを増してくるではないか。おそろしい小説だ。まあ、これほど「病んでいる」のだから、私としてはここはSFとカテゴライズしておきたい。そう、「病んでいる」というテイストこそ、SFにとってもっとも重要な要素であり、病んでいない人にはSFを読む資格などありはしないのだ。少なくとも私はそう思っている。 それにしても、森奈津子氏のせいで「後生ですから・・・・」という言葉に劣情をもよおす体質になってしまったぞ。どうしてくれよう・・・。
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