『銀の匙』(中勘助・著/岩波文庫・緑51-1)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
なかなか開かなかった茶箪笥の抽匣(ひきだし)からみつけた銀の匙.伯母さんの無限の愛情に包まれて過ごした日々.少年時代の思い出を中勘助(1885-1965)が自伝風に綴ったこの作品には,子ども自身の感情世界が,子どもが感じ体験したままに素直に描き出されている.漱石が未曾有の秀作として絶賛した名作.改版.(解説=和辻哲郎)
作者の大人になるまでの心象風景がとりとめもなく延々と綴られるいわゆる「私小説」である。告白を基本としており、たとえば伯母さんが無条件に自分を愛してくれ、自分の見方になってくれたといった記憶を、思い出すまま細大漏らさず書き留めていったという印象。決して自分が「何かを失った」とか「壊れた」といった破滅型心象を描いていないところが好ましい。とはいってもいささかの自己憐憫を交えて書いてはいるのだが、このあたりは決して嫌みに感じられない程度の味わいと言ってよいだろう。和辻哲郎氏の解説によれば、この小説は作者二十七歳のときに
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