旅に出るため、先日、会社を辞めた。
前置きが長くなった。『東南アジア四次元日記』(宮田珠己・著/文春文庫+PLUS)を読み終えました。栄えある第3回酒飲み書店員大賞受賞作である。私が読んだ”文春文庫+PLUS”刊はどうやら廃刊になっているが、昨年7月に幻冬舎文庫で復刊されているようだ。
裏表紙の紹介文を引きます。 「旅行をしまくりたい」と会社を辞めてしまった謎の元サラリーマン。念願かなって、期間未定、アジアの国境を陸路で超えゆく旅に出発。変なものを探して考察しながら各国をさまよう。ミャンマーでオカマに熱烈に歓迎されようが、ラオスの山奥で日本人代表として恥をかこうが、全力リラックスで進むべし。既存のかっこいい旅行記とはちょっとちがう爆笑珍紀行。
会社を辞めて旅に出た。旅行記としてはありがちな本である。ただし、旅に出るために実際に会社を辞めてしまう人がそうそうあるとは思わない。少なくとも謹厳実直を画に描いたような私には、逆立ちしてもムリ。七回生まれ変わって、ひょっとしたら……というほどのものである。
エッセイに取り上げられているのは、例えば素晴らしい景色やその地の深い文化などではなく、下らないもの、意味の無いもの、摩訶不思議なもの、要はよく解らないものばかりである。宮田氏はどうやらそのようなわけのわからないものに異様に惹きつけられる人のようだ。本のタイトルにも使われている「四次元」という言葉であるが、宮田氏はよく判らない状況を四次元的と表現しているようだ。確かに四次元はよく解らない。私が住んでいるこの世界は三次元の立体空間である。その私の影は二次元の平面として映る。ということは、もし私が四次元的人間であれば、私の影は三次元の立体として映ることになるのか。三次元の影とはいったいどのようなものなのか? よく解らないのである。 話が脱線してしまった。この本のことに話を戻す。全体に独特のユーモアをちりばめてあり、読む者を楽しませてくれる。独特のユーモアのある紀行エッセイといえば真っ先に椎名誠氏が思い浮かぶ。宮田氏はおそらく椎名氏の旅ものを読んでいる。それもかなり読み込んでいると感じる。しかし、椎名氏とはまたユーモアの質が違う。どちらが面白いかを比べてもしようがないが、私は椎名氏に一票を差し上げたい。と言っても、世代的に椎名氏に近いからそう感じるのかもしれないが。 本を読んでいて一点、宮田氏が真実に迫ったと思われるところがある。その真実とは「人間は基本的に、さまよったりうろうろしたい生き物なのではないか」ということ。人間は判らないことを楽しむ、よく判らない生き物だということ。 どうやら東南アジアは人にさまよう楽しさを味わわせる奇妙奇天烈摩訶不思議四次元的空間らしい。一度、その地を訪れた者は、その魅力に絡め取られてしまいそうだ。
【酒飲み書店員大賞受賞作】 第1回『ワセダ三畳青春記』高野秀行(集英社文庫) 既読
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