雪のにおいがしていた。 今一度、娘の瞳を覗き込むと、男は温かな声で告げた。 「良いか、澪。その道を行くと決めた以上、もはや迷うな」 道はひとつきりだ、と言い置くと、小松原は娘に背を向けた。 銀華の幕越しに、去っていく男の背を見つめていて、初めて男から、澪、と名を呼ばれたこと気付いた。そして自身は最後まで男の本当の名を呼ばないままだった、と。 (本書P27-P28より)
『みをつくし料理帖 夏天の虹』(高田郁・著/ハルキ文庫)を読みました。
まずは裏表紙の紹介文を引きます。
想いびとである小松原と添う道か、料理人として生きる道か・・・・・・澪は、決して交わることのない道の上で悩み苦しんでいた。「つる家」で料理を旨そうに頬張るお客や、料理をつくり、供する自身の姿を思い浮かべる澪。天空に浮かぶ心星を見つめる澪の心には、決して譲れない辿り着きたい道が、はっきりと見えていた。そして澪は、自身の揺るがない決意を小松原に伝えることに―――(第一話「冬の雲雀」)。その他、表題作「夏天の虹」を含む全四篇。大好評「みをつくし料理貼」シリーズ、〈悲涙〉の第七弾!!
<悲涙>の言葉から想像はついたものの辛く切ない話の連続だった。小さい頃、易者に「雲外蒼天」(艱難辛苦が待ち受けているが、その苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことができる)の相と占われた主人公の澪であるが、いったいいつになったら真っ青な空を望むことができるのだろう。雲が厚すきますよ、高田さん。
今作での小松原の行動はまさにノーブレス・オブリージュ。世間からの非難を覚悟の上で、周りの者すべてが上手くいくように配慮する。特に弱い者が傷つくことの無いように心を砕く。周りからの非難の目にも押しつぶされることなく、超然としていられるだけの心と力、両面の強さがあってこそこれができる。まさに高貴な者であるからこその行いでしょう。そして身分は低くとも澪の心も高潔そのもの。澪と小松原双方の高貴さが二人の将来に立ちはだかる大きな壁になろうとは皮肉としか言いようがない。
巻末の瓦版に書かれていたのだが、これまで年二冊のペースで刊行してきたが次巻まで一回分休みたいとのこと。殺生だっせ。一年間は長いよぅ、高田さん。まあ、今年の五月にシリーズに収められた料理のレシピと写真と随筆とをまとめた文庫本が出る由、許してつかわそう。
(追記メモ) 作中に出てきた料理「鯛の福探し」(鯛の粗炊き)の豆知識。
鯛の九つ道具
桜鯛と云って鯛の美味しい季節。一尾尾頭付きを買ってきて探してみますか。
「鯛の九つ道具」についてはどなたかのブログに写真入りの紹介がありました。
http://blog.goo.ne.jp/mori15donguri0402/e/ff35ad5da…38f64f993e
「鯛の福玉」は観ない方が良いですね。(笑)
|