小佐内さんは、甘いものと復讐を愛している。小佐内さんに手を出せば、必ず噛みつかれる。なぜなら小佐内さんは噛みつくことが好きだから。 だけどその復讐は、セーラー服に機関銃を持って敵を皆殺しにする形では行われない。彼女は罠を張り、敵を落とし穴に誘って、落ちたその上から鉄の蓋をして復讐する。 それは、ぼくがのっぴきならない悪事を見出したとしても、虎徹を腰に悪即斬と暴れまわったりはしないのと同じこと。「火」は、ぼくのやり方ではない。同時に、小佐内さんのやり方でもないはずだ。 (本書上巻P244より)
『秋期限定栗きんとん事件 上・下』(米澤穂信・著/創元推理文庫)を読みました。
<小市民>シリーズ第三弾です。このシリーズは人の死なない日常ミステリの学園ものとして確固たる地位を築いています。登場人物は必ずしも善玉ヒーローではないのですが、不思議な魅力を帯びています。
まずは出版社の紹介文を引きます。 (上巻) あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…シリーズ第三弾。 (下巻) ぼくは思わず苦笑する。去年の夏休みに別れたというのに、何だかまた、小佐内さんと向き合っているような気がする。ぼくと小佐内さんの間にあるのが、極上の甘いものをのせた皿か、連続放火事件かという違いはあるけれど…ほんの少しずつ、しかし確実にエスカレートしてゆく連続放火事件に対し、ついに小鳩君は本格的に推理を巡らし始める。小鳩君と小佐内さんの再会はいつ―。
前巻『夏期限定トロピカルパフェ事件』の結末で袂を分かつことになった小鳩くんと小佐内さんの互恵関係。本巻ではそれぞれに付き合ってくださいとオファーがあり、別々のカップルに。人間関係が複雑になってきました。でもそれは恋愛関係のようで、恋愛関係でない微妙な関係。そう、恋愛関係というには決定的に足りないものがあるのです。おそらくそれは“passion”情熱ではないかと。小鳩くんが仲丸さんと付き合うのはなりゆき。小佐内さんが瓜野くんと付き合うのは果たして何故か? 上巻での最大の疑問はこの点だ。瓜野くんはどう贔屓目に見ても小佐内さんの相手ではない。人間の格が違うのだ。小佐内さんの掌中で転がされているといって良いだろう。復讐が好物という小佐内さんが不気味で、町で起こっている連続放火事件に何らかの関わりがあるのかどうか、あるとすればどのような関わりなのか。それが本作の最大の謎です。 最終的に収まるところに収まりましたね。小鳩くんと小佐内さんの再会と再出発。しっくりしました。 それにしても私は小佐内ゆきが怖い。彼女が現実に目の前にいたとしても、交際相手に選びたいとは思わないだろう。いかにコケティッシュなところがあろうとも彼女は復讐を愛する小悪魔だ。しかし、物語の最後に彼女が言った一言(復讐しようと思った理由)が私の心を捉えて放さないのも事実。故に私はこう予言する。「『冬季限定****事件』が上梓されたら、きっと読んでしまうだろう」と。小佐内ゆきに会いたいがために・・・
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