『鴨川食堂』(柏井壽:著/小学館)を読了。 「”食”探します」 食堂を訪れる客の依頼により、今では食べることの出来ない思い出の食べ物を探しだし、再現し提供するという趣向。断片的な手がかりから思い出の味を再現しなければならず、その点でミステリー小説の趣があるものの、この小説はむしろ人情小話といったほうがぴったりくる。人には誰にも思い出の味があり、その味をもう一度食べることで、味だけでなく当時の様々なことが鮮明に思い起こされる。長い時の経過にさらされても忘れ去られることなく、心の奥底で大切に守ってきた思い出、それこそがその人のルーツだろう。”食”を探しだす作業は、その人の人生を見つめ直し、未来へ向かわせる作業でもある。 |