髪、切ったんですね。 ああ、はい。大船は俯いてしまった。なにかとてもまずいことを口にしたようだった。もしかしたら切ったことを後悔しているのかもしれない。 『恋しくて』って映画、ご覧になったことあります? 二十年くらい前の映画なんですが。 大船が顔をあげた。目を大きく見開き、何年か前にツタヤでビデオ借りて観ました、と言った。 あれにでてくる、髪の短い子。名前なんていったかなぁ。長い名前なんで思い出せないんですが。 メアリー・スチュアート・マスターソン。 そうそう、彼女に似てます。 (本書P259-260より)
『シングルベル』(山本幸久・著/朝日文庫)を読みました。 いい。やはりいい。山本幸久さんは期待を裏切らない。名前の”幸”の文字どおり幸せな気分になる。氏の小説いつもの例に漏れず、この小説にも悪人は登場しない。心がぽかぽか温かい。 一番の問題は進藤陽一が思い寄する人が誰かということだろう。3回読み返したがやはり確信するまでに至らなかった。外資系キャリアウーマン円山すみれ、バンドをやっているメアリー・スチュアート・マスターソンに似(?)の大船彩子、ハーフの元モデルで現マネージャーの双葉カトリーヌ、いったい誰なんだ? 私の勘であるがカトリーヌは外していいように思う。残るはすみれか彩子。素直に読めば彩子というのが順当なところ。しかし私とすればここはすみれであって欲しい。なにせ花言葉が”謙遜””誠実”極めつけが”小さな幸せ”なのだから。 この週末はTSUTAYAで『恋しくて』を借りてこようかな。
作中、この曲が象徴的に使われていました。 小泉今日子 「月ひとしずく」
最後に裏表紙の紹介文を引きます。 恋の気配すらない息子・陽一に業を煮やし、親同士のお見合いセミナーに参加した父・恵。3人の女性たちとの“出会い”を演出するも…。次々と飲み友化していく彼らは果たして結婚までたどりつくのか?4年後を描いた書き下ろし短編「ハンドベル」を文庫化にあたり収録。
(追記) 『シングルベル』は単行本より、この文庫本がおすすめです。なぜなら後日談の短編「ハンドベル」が収められているから。この短編がまたほほえましくもあたたかいお話です。
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