冷蔵庫がたくさんあるわけではない。 わが家の冷蔵庫はふたつ。 正確に言うと冷蔵庫の野菜室がイッパイなのだ。 イッパイといっても冷蔵庫に野菜室がたくさんついているわけではない。 ふたつの冷蔵庫に野菜室は一つずつしかついていない。 つまり野菜室はふたつ。 どうでも良いことのようですが、はっきりさせておきたい。 私の性分です。 ふたつの野菜室の内の一つに野菜が入ることはなく、酒瓶がごろごろしています。 昨日、しおりんのパパさんにお願いして「夜明け前」を二本手に入れました。 その二本が野菜室にはいると、もう余裕が無くなってきているのです。 どうして「夜明け前」を買ったのかというと、 夏川草介氏のベストセラー『神様のカルテ』を読んで、 主人公の一止(いちと)とその妻・榛名(はるな)が一緒に飲む信州の名酒を無性に飲みたくなったのです。 奥さんの榛名は夫を「イチさん」と呼びます。夫の一止は奥さんを「ハル」と呼びます。 とても仲の良い夫婦です。 お互いを思いやる夫婦の姿につれあいというものはこうあらねばと思います。 イチさんは医者でしょっちゅう救急当直もこなすハード・ワーカー。 ハルは写真家で世界を股にかける。 一緒にいられないことも多いけれど、お互いの想いは深い。 激務に疲れ果てたイチさんをとびっきりの笑顔で迎え、 患者の死に落胆するイチさんにそっと寄り添う。 ハルはまたイチさんの周りの人をとても大切に思っていて細やかな気遣いを見せる。 ハルにふれあう人は皆、ハルの温かさに癒されガンバロウという気概を持つ。 ハルはまた、イチさんが他の人に心を移しはしないかとちょっぴりヤキモチも焼く。 かわいいではないか。 冷蔵庫の野菜室に話を戻そう。 昨日手に入れた「夜明け前」二本と「浦霞」「白酔」その他ワインなどで野菜室がイッパイである。
困った。 実は明日、名酒「竹泉」の蔵元・田治米酒造で蔵見学をするのだ。 当然のことながら、一升瓶で二本ぐらいは買って帰ることになろう。 冷蔵庫に入らないではないか。 明日の朝までに少なくとも一升は酒を飲み、スペースを空けなければならぬ。 辛いことである。 昨夜も飲んだ。ハルさんを思いうかべながら飲んだ。 ハルさんとはイチさんのつれあいのハルさんであって、私のつれあいのことではない。 念のため。 実は私のつれあいも「ハル」と呼べる名前であること、私も妻を大切にする男であること、 このふたつは主人公と私の数少ない共通点である。 また、ハルさんの話になってしまった。 「夜明け前」に話を戻そう。これはやはり信州の名酒である。 昨夜の晩ご飯と一緒に飲みました。 「甘海老寿司」と「炙り生さば寿司」 福井県の名店、四季食彩・萩さんの寿司です。 美味い寿司に美味い酒。 酒がツイーっと腹におさまります。 この調子で明日までに一升空けます。 義務感から飲むのは辛いけれど、冷蔵庫をもう一台増やすわけにもいくまい。 やむを得まい。
飲んで空かない酒瓶はない。 明けない夜がないのと同じように。
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