2011/4/22
『告白』(湊かなえ/著・双葉文庫)
そもそも、普段からちゃんとしている人に授業を中断してまで語らなければならないことなんてあるのでしょうか? 道を踏み外して、その後更生した人よりも、もともと道を踏み外すようなことをしなかった人の方がえらいに決まっています。
『告白』(湊かなえ/著・双葉文庫)を読みました。
裏表紙の紹介文を引きます。 「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!“特別収録”中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。
初めて読む湊かなえさんです。ベストセラーとしての評判を聞いていましたし、映画化もされたと知っていましたので是非読んでみたいと思っていた一冊です。デビュー作でいきなり「週刊文春ミステリーベスト10」1位、本屋大賞1位という快挙を成し遂げた作品。それもそのはずと唸らされるだけの本でした。読者を物語の世界にグイグイ引き込み、一気に読ませ、えっと驚かせる極上のエンターテイメントという意味で。しかし、読後感は良いとは言えません。タブーに触れているからでしょうか。
この小説において正義あるいは倫理はない。私は小説において、いや日常においてすら正義や倫理を振りかざしたいとは思わない。ですから、この小説を良くできた物語として楽しむことに吝かではない。事実、何度もへえーっと感心したし、考えさせられるテーマも多かった。(シングル・マザーの子育て環境、モンスター・ペアレント、イジメ、過保護、ドメスティック・バイオレンス、犯罪の低年齢化、エイズ……) このような物語を紡いだ作者の頭の良さにも脱帽である。しかし、好みを言わせていただけば、小説としてもの足りない。贅沢を言うようだが、そこに味わいが欲しいのだ。
余談ですが、この本を読んで以前読んだ本二冊を思い出しました。一冊は道尾秀介氏の『向日葵の咲かない夏』。これは良くできているが、どちらも救いのない話だなーという共通点。もう一冊は伊藤計劃氏の『虐殺器官』。ドストエフスキーの『罪と罰』にからめて「正当化された殺人があるかどうか」という命題について考えさせられたという意味で。 いずれにしても記憶に残る一冊であることには違いない。
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