イズミはカンとクドウを似たもの同士だと思っていた。ルックスも趣味も性格も見事に対照的ではあるのだが、クドウがあのとき叫んだ「コルトレーン聴いてなんも感じひん魂やったら、捨ててまえ!」という台詞と、今カンがイズミの隣で、自転車に乗った女子高生に向かって叫んでいる「やらして!!」は、結局のところ同じ場所から湧き出ている叫びなのだ。
『太陽がイッパイいっぱい』(三羽省吾・著/文春文庫)を読みました。(ガテン系+酒呑み系)お仕事小説です。三羽氏はこの小説で「第8回小説新潮長篇新人賞」を受賞。またこの小説は「第5回酒飲み書店大賞」受賞作でもある。 http://www.webdoku.jp/event/sakenomi/ 三羽省吾氏の小説を読むのは初めてです。いささか下品な表現が頻発し暴力的です。どのように下品かと言えば「チ●ポに芯はいってもた」などという表現が平気で出てきます。これが森見登美彦氏なら「荒ぶるジョニー」といったブンガク的?表現をするのでしょうが、三羽氏はあえて登場人物に直截な台詞を吐かせます。たとえば、物語の始まり、京阪電鉄大和田駅近く、ガード下の立ち飲みやでの会話は次のようなものです。 「あのメシ屋の娘(こ)ォ、絶対オレに気ィあるわ。オレんだけごつうい愛想えぇやろ? 今日、アディダスの短パンか何かはいとったけど、あのぷりっとしたケツの線見てたらナニに芯入ってもてえらいことになったわ。はれはどーも下つきやな。いつか立ったまんまで後ろむかして、こうスパーン! スパーン! やったらなあかんな、ウン」 私のつれあいなど、読み始めるや「ムリ」と言って放り投げてしまいました。女性には向かない本なのかもしれません。しかし、私はこの本、大好きです。登場人物の口から吐き出される言葉は些か下品ではあっても、それこそ大阪の建設工事現場のリアリティに溢れているし、彼らの魂自体はあくまで高潔だから。彼らは小賢しく立ち回り、ちまちま生きることなどはなから頭になく、ただただかっこ悪い生き方はしないと決めている。彼らにとってかっこ悪い生き方とは、例えば、お金のために気にくわないヤツにヘイコラしたり、弱い者を痛めつけるような行為だ。解体屋という掃きだめに高潔の士がいた。
裏表紙の紹介文を引きます。 バイト先の解体現場に人生のリアリティを見出した大学生のイズミ。巨漢マッチョ坊主カンや、左官職人崩れで女性に対し赤面症の美青年クドウ、リストラサラリーマンのハカセなどと働く「マルショウ解体」の財政は逼迫し、深刻な問題が…。過酷な状況における人間の力強さをユーモラスに描いた傑作青春小説。解説・北上次郎
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