このすきやきの特徴は、あの、素晴らしい肉の旨味だけを、純粋に堪能しよう、と言う訳なのですね。その場合には、葱や豆腐は、よけいなものなのです。贅沢と言えば、これ以上、贅沢なすきやきはありませんね。極道すきやきと名前をつけた私の気持ちが、誰にでも分からない筈がない、と私は思ったのです。
『文士料理入門』(狩野かおり・狩野俊・著/角川書店)を読みました。
文士たちが、
太宰治、内田百閒、池波正太郎、幸田文、武田百合子……
太宰治・卵味噌のカヤキ/檀一雄・大正コロッケ/内田百閒・豚鍋/草野心平・蓮根と豚の揚げ団子/井伏鱒二・蛸のぶつ切り/立原正秋・塩辛大根漬/吉田健一・新橋茶漬け/池波正太郎・葱と剥き身の小鍋仕立て/藤沢周平・玉こんにゃく/幸田文・えだ豆三様/宇野千代・極道すきやき/森茉莉・胡瓜の皮サラダ/武田百合子・茄子にんにく炒め/向田邦子・南瓜の塩蒸し…… 作家15人の全53レシピをオールカラーで!
角田光代、矢作俊彦、石田千の書き下ろしエッセイ付き。
どんな料理かを二品ばかり紹介すると、たとえば「極道すきやき」は牛肉にブランデーと割り下をかけ、溶き卵をまぶし、しばらく置いて味が馴染んだところで、太白胡麻油を引いたホットプレートで焼く。また「いちじくのウイスキー煮」はいちじくの皮を剥いて小鍋でひたひたのウイスキーかブランデーでことこと弱火で15分ほど煮る。
文士の食に対するこだわり方はそれぞれに味わい深い。それは同じレシピでも料理人によってそれぞれ味わいが違うのと同じことだろう。文章に人柄が現れるように、料理もまた人なのだろう。
著者の狩野かおり・俊のお二人は東京は高円寺にコクテイル書房を経営していらっしゃるらしい。コクテイル書房は古書店と居酒屋を兼ねる。そしてお店の名物料理はもちろん文士料理。それこそ、本好き、酒好き、おいしいもの好きにとって夢のような店です。ぜひ、一度は訪れてみたいものです。
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