「どうしたんですか?」 ……… 男が警戒心を感じさせなかったせいだと思う。いつのまにか男の前にしゃがみ込んでいた。
『植物図鑑』(有川浩・著/角川書店)を読みました。
http://www.kadokawa.co.jp/sp/200906-02/
これは恋したい乙女のおとぎ話である。有川浩氏を乙女と言っていいかどうか多少迷うところだが、有川氏の乙女度は高い、それもかなり高いと見た。先生の願望を120%妄想化していると云ってもあながち見当はずれではないだろう。なにせある日飲み会から一人暮らしの部屋に帰ろうとしていた道すがら、若くてカッコイイ男が道端に落ちているのである。しかもその男、ウィットに富んでいて「俺を拾ってくれませんか?躾のいい男です。咬みません」などと曰うのだ。
この小説の良さは、ベタ甘と言って良いほどの甘さなのだが、それだけではない。寒い冬の後にようやく訪れた春とその後に予感させる花が咲き緑萌える幸せな季節の到来を象徴する春の野草の”ほろ苦さ”、この幸せな”ほろ苦さ”こそがこの小説の良さなのだ。そしてこの小説を読むのに最も適した季節は2月~3月です。冒頭に引用した場面は主人公さやかがちょっといい男の行き倒れ”イツキ”を道端で拾う場面だが、これがまだまだ夜が凍りつく冬の終わりのこと。そして二人の生活が始まり、寒さが和らぎだんだん温かくなる春の訪れに合わせたように二人はその関係を温めていきます。そのきっかけとなるのは春の野草摘み(フキノトウ、フキ、ツクシ、ノビル、セイヨウカラシナなどなど……)とそれを使った料理なのである。
これは賛否両論、毀誉褒貶、賞賛悪評相半ばする小説でしょう。評価はどうあれ非常な魅力に溢れた小説であることに間違いはありません。未読の諸兄諸姉には是非一読をお薦めしたい。恋愛小説として楽しめるかどうかはともかく、料理してみようかという気になると思いますよ。あ、料理といえば作中で「料る」という表現が目立ちます。私はそのたびに引っかかりをおぼえました。有川氏には失礼ながら、普通に「料理する」とか「調理する」などの言い回しの方が良いと思います。古い言い回しでこうした表現はあるのでしょうけれど、この小説内でこの表現は違和感がありすぎだ。ちょっと残念でした。
うれしいことに巻末に特別付録「イツキの”道草料理”レシピ」がついています。
小説中にはこのほかにたくさんの道草料理が登場します。私はそれらの料理を作って楽しんでいます。「ばっけ味噌」「フキノトウの天ぷら」「ユキノシタの天ぷら」などです。まだ季節が早く生えてきていませんが「イタドリの炒め物」も作ってみたい。「シュウ酸」に注意が必要ですけれど…… さて、今日は天気もよい。今からノビルを獲りに行くとしましょう。
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