「なかなか腐りにくい」 という点も野菜界のなかでは突出している。一カ月ぐらい平気で耐えるそのけなげな忍耐強さには定評がある。 少し前まで「おしんかタマネギか」といわれていたゆえんである。さらに嫁にするならタマネギのような人を、とむかしからいわれているゆえんである。 一カ月ぐらいほうっておくと、頭の真ん中あたりからあたらしい芽をだし、あまつさえ下からは細い根まではやしたりするところもいじらしいではないか。自分のからだを犠牲にしてまで子孫を残そう、という生命力の強さと自己犠牲の精神は、現代人が忘れてしまった大切なナニカを思いおこさせてくれるのである。 こんなことがピーマンにできるか。ピーマン頭め、とわたしは言いたい。モロヘイヤにできるか。椎茸にできるか。フルーツトマトにできるか。キャベツにできるか! レタスなどときたらひとつずつセロファンのようなものをまとっているくせにちょっと濡れると大騒ぎして、すぐにヒトのせいにする。しかもあてつけのようにしてそのあたりから腐ろうとするわがままな性格で、それを隠そうともしない根性の悪さだ。 (本書P24より)
『本日7時居酒屋集合! ナマコのからえばり』(椎名誠・著/集英社文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。 人生のヨロコビはいつもの場所で仲間と呑む冷たい生ビールなのだあ!心の底から叫ぶ量産型原稿職人シーナマコト。カツオの一本釣りにムネときめかせ、タマネギの効用を熱く語り、多機能機械にスルドイ突っ込みを入れ、本場トルコ風呂で大悶絶。至福の時が手に入るならシメキリ地獄もなんのその。ナマコ一匹やるときはやるのだ。いちゃもんと妄想がおりなす脱力系ナマコ・エッセイ第2弾。
7時というのは椎名氏がアジトとしている新宿の居酒屋で最初の生ビールをグビグビと飲み「プハーッ」と言う時間なのだ。椎名氏は月20本以上の締め切りを抱えているのだ。まさに締め切り地獄なのだ。そのような毎日の中で、締切太郎、締切次郎、締切三郎と目の前の締め切りをやっつけ、居酒屋で「プハーッ」とやることを最大のヨロコビとする人生なのだ。飜って私は今日も大した仕事もせず、通勤バスの中で本を読み、家に着くなり冷蔵庫の缶ビールのプルトップをプシューッと開ける人生なのだ。誠にスマヌ、スマヌ。
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