海の広さが白亜紀(クリティシャス)の頃の規模に戻ることから、この現象は<リ・クリティシャス>と名づけられた。 進行中の様々な災厄、そしてリ・クリティシャス。 人類は、これらの環境の激変に、ただ<適応>するしかなかった。 世界中の政府が、人類という種を生存させるために、ついに、科学技術に関する従来の倫理規定を捨てる決断をした。人類史上初めて、全世界で共通する生命操作技術の基準が作られた。
<環境適応のため、地球上のあらゆる生物に、人為的に改変を加えることを容認する。この『生物』の定義には、すべての人類も含まれる__>
(本書上巻P31より)
『華竜の宮 (上・下)』(上田早夕里・著/ハヤカワ文庫)を読みました。 どっしり読み応えあり。上巻を読み始めたのが今月の8日。下巻を読み終えたのが今日(17日)です。ふつうはここまでかかりません、かけません。決して読みにくかったわけではありません。冗長に過ぎてダレたわけでもありません。面白かったのです。エキサイティングでした。それを丁寧に、丁寧に読み込んでいきました。以前に本書につながる短編集『魚舟・獣舟』を読んでいたので読む前から判っていたことですが、素晴らしいSF小説でした。
まずは出版社の紹介文を引きます。 (上巻)ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は“魚舟”と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす―。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。
(下巻)青澄は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長・ツキソメと会談し、お互いの立場を理解しあう。だが政府官僚同士の諍いや各国家連合間の謀略が複雑に絡み合い、平和的な問題解決を困難にしていた。同じ頃“国際環境研究連合”は、この星の絶望的な環境激変の予兆を掴み、極秘計画を発案する―最新の地球惑星科学をベースに、この星と人類の運命を真正面から描く、2010年代日本SFの金字塔。
生物に改変を加えるのは神の所行。人類がその所行に及んだとき、想定を超えた結果が待つ。なぜなら人類は神のように全知全能では無いのだから。 上田氏は神の視点で終末を迎えた地球を描いた。この世界観は、ただただスゴイの一言だ。 終末を迎えた地球、その極限状態にあっては人間的な主情など無駄を通り越して、ただのお荷物でしかない。しかし、上田氏はロマンティシズム、ヒロイズム、リリシズムにあふれた主人公に終末世界の希望を託した。人類滅亡が必至と思われる世界をタフに、しかし優しく生きようとする主人公の物語はSF小説を超えて優れたハードボイルド小説となっている。
|