「昔はねえ、お家賃というのは本で払ったものですよ」 「本」 「ええ。本」 大家さんはそんなことを言った。 まっすぐわたしを見つめて、お家賃は本でもって支払っていたのだ、と彼女はそう言う。 「だけど今の若いひとってあまり本を読まないでしょう。だからわたしも、しかたなくね、近頃は現金で頂くことにしているの」 (本書P5 書き出しより)
『はじめまして、本棚荘』(紺野キリフキ・著/MF文庫ダ・ヴィンチ)を読みました。 冒頭引用した書き出しに強く惹かれて手に取りました。 なに? 「本棚荘」だとぉ? しかも家賃を本で支払うだとぉ? はたして本好きにとってこれほどそそられる書きようがあるだろうか。いや無い。
出版社の紹介文を引きます。 お家賃は、「本」でいただきます?
読みやすかった。といって理解しやすかったわけでは無い。といって難解なわけでも無い。文章は平易。意味もはっきりとわかる。でも現実感が無い。といって描かれているのは日常である。日常ではあるがこんな世界は見たこと無い。ありそうで無い、無さそうでありそうな、なんだか訳のわからない謎の世界。それが本棚荘である。吉田篤弘氏の小説『 つむじ風食堂の夜』と似た不思議に優しい世界だ。 それにしても「トゲ」とは何なのか。もやっとして判然としない。解明する必要はないのかな。自分なりの解釈をすれば。あるいは、ただ感じれば・・・。
あ、そうそう。 ひとつ言っておきたい文句がある。 題名と書き出しで本好きの心を鷲づかみにしておきながら、小説に本のことがあまり書いてない。はっきり言って肩すかしを食らった気分だ。本好きの心を弄んではいけませんよ、キリフキさん。
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