「狸であったらだめですか」というまったく工夫のない台詞は、その頃の私が口にしたものだ。弁天は「だって私は人間だもの」と応えた。
『有頂天家族』(森見登美彦/著・幻冬舎文庫)を読みました。先月『恋文の技術』を読んで以来、再び森見中毒に苦しんでいる。中毒ならば『宵山万華鏡』『ペンギンハイウェイ』が未だ未読なので購入すれば良さそうなものだが、これらは単行本であって文庫本ではない。私は常に文庫本を持ち歩きちょっとした時間の間隙を縫って読み進めるスタイルを旨としている。従って単行本購入を我慢し文庫化を待つ日々が続いている。ところがどっこい『有頂天家族』が文庫化されているではないか。「amazon」を物色していて文庫版『有頂天家族』を見つけたのです。なんと去年の8月に文庫化されているではないか。不覚を取りました。即購入し読了した次第。
「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、狸の名門・下鴨家の三男。宿敵・夷川家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け廻る。が、家族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて人間の美女にうつつをぬかす。世紀の大騒動を、ふわふわの愛で包む、傑作・毛玉ファンタジー。
温かき家族愛の物語です。人間に家族があるように、狸にも家族がある。昨今、人間界の家族愛は急激に亡びつつあるが、狸界における家族愛は健在と見える。ちなみに天狗に家族があるかどうかは不明である。
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