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2014年06月02日(月) 
第十七話「自己超越した経営者が地域を支える」

「すいませんが、地味な主婦にもわかるようにもっとやさしく説明してくれませんか。じゃないと頭の中がウニになって身体が自然に暴れ出しそうですぅ~」と直美が泣きを入れた。「クーポンが単なるお金儲けじゃなく、地域のみんなをつなぐきっかけになり、同じ目的で頑張る人たちとも一緒に連携しながら、みんなでいろいろ努力することがソーシャル・キャピタルを豊かにして、少しずつだけど極点社会化にも負けない強い地域社会を創り上げる、ということなんですよ」と高校生の中村が直美に諭すように説明した。「わかった♪」。大阪のおばちゃんは、たとえ意味不明でも若いイケメンの言葉なら即座に納得するものらしい(笑)。

ソーシャル・キャピタルは、信頼関係でつながった仲間グループの緩やかな集合体と考えるとよい。個人間は直接的信頼関係になくても、社会という場の信頼性がそれを補完するので、全体としてはソーシャル・キャピタルの効果である「スピードアップ」「クオリティアップ」「コストダウン」「サスティナブル」が実現される。信頼しあう小さな仲間グループを作ることは実社会でもさして難しいことではない。しかし仲間グループは総じて閉鎖的・排他的になりがちで、それらをひとつの目的に向けて緩やかにつなぐことは非常に難しい。地域活性化に成功したベストプラクティスに、このハードルを乗り越えた事例が非常に多いように、ソーシャル・キャピタルの醸成は地域を元気にする至上命令である。

「世俗経済の象徴のようなクーポンのような仕組みを使って、ソーシャルなんたらを豊かにするなんてことができるのか?」。ご当地グルメ連絡協議会の会長を務める北野弘司(60)が怪訝そうに口を開いた。「クーポンなんて損得で人を集める仕掛けだろう。そんなのが何人何回店に来ても、信頼なんか生まれへんで」。北野の発言は至極もっともだった。これに対して畑井は「店舗側の取り組み姿勢やそれを応援する人たちの思いを見える化することによって、値引き目当てだけの利用者ではなく店舗がつながりたいと考える層の住民が集客できます。問題はこのあとで、来店してくれた人たちにつながりたいと思わせ、どのようにつなぐかなんです」と店舗側の努力が必要なことを示唆した。

「三軒寺広場に『クロスロードカフェ』という小さなお店があります。ご主人の荒木宏之さん(60)は、地域が好きで地域の人が大好きな人。『いろんな人が出会いいろんな想いがクロスするように』という思いで12年前にお店をオープンしました。最初のうちはあまりパッとしませんでしたが、ひとりまたひとりと地域を思う人たちが集まるようになって、いまではクロスロードに行けばきっと誰かといい出逢いがあるといわれるようになっています。今では、街のキーパーソンたちの交流拠点として、街にはなくてはならない装置のひとつになっています。ただ食事を提供するなら値引きで客を釣るしか方法はないかも知れませんが、思いを一緒にメニューに加えたお店では、お腹と一緒に心が満たされているように思います」。畑井と一緒に高校で教鞭を執る清水雄(37)が語った。

米国の心理学者アブラハム・マズローが唱えた学説に「欲求段階説」がある。人間の欲求は5段階のピラミッドのようになっていて、底辺から始まって1段階目の欲求が満たされると、1段階上の欲求を志すというものである。欲求段階説における5段階とは、
1.生理的欲求 生命維持のための食欲・性欲・睡眠欲等の本能的・根源的な欲求
2.安全の欲求 衣類・住居など、安定・安全な状態を得ようとする欲求
3.社会的欲求 集団に属したい、誰かに愛されたいといった欲求
4.自我の欲求 集団から価値ある存在と認められ、尊敬されることを求める欲求
5.自己実現の欲求 能力・可能性を発揮し、自己の成長を図ろうとする欲求
第二次世界大戦後の福祉政策の充実によって、先進国では飢餓的貧困問題がほぼ解決し「生理的欲求」や「安全の欲求」という低次の欲求は充足された。そして段階的により高次の欲求が芽生え「社会的欲求」「自我の欲求」「自己実現の欲求」を満たそうと動き出す。この過程では、欠乏欲求を十分に満たした経験のある者は欠乏欲求に対してある程度耐性を持つようになる。そして、一部の宗教者や哲学者や慈善活動家などのように、成長欲求実現のため欠乏欲求が満たされずとも活動できるようになるという。

晩年にマズローは、「自己実現の欲求」のさらに高次に「自己超越の欲求」があるとした。自己実現を果たした人の特徴として、客観的で正確な判断、自己受容と他者受容、純真で自然な自発性、創造性の発揮、民主的性格、文化に対する依存の低さ(文化の超越)、二元性の超越(利己的かつ利他的、理性的かつ本能的)などを挙げている。地域クーポンはきっと「どんどんお金儲けがしたい」という店舗には似合わないシステムであるに違いない。濁点(゛)は仏教では汚れと言われ嫌われるが「どんどん」から汚れを払い、稼ぎは「とんとん」でいいから地域に役立つことがしたいと考える人は少なくない。北野や荒木はまさに「自己超越の欲求」に到達した経営者と言える。

「清水くん、さすがは先生や、ええことゆうな~。金儲けしか考えへんヤツは信用できん。そんなん入れへんかったらええねん。その代わりに、わしの飲み友達はバカがつくほどええ人間ばかりやから、この仕組みにぴったりという訳やな。せいぜい宣伝しとくわ」。ご当地グルメの普及に奔走するこの北野の家業が、飲食とは全く関係のない布団屋さんであることを知る人は少ない(笑)。

つづく

この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑)

閲覧数798 カテゴリ日記 コメント2 投稿日時2014/06/02 05:26
公開範囲外部公開
コメント(2)
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  • 2014/06/02 23:37
    学校に手作りでインターネット環境を工事からやっちゃうという、あの伝説の運動ですね
    先駈けとなった兵庫だから、今があるのですね
    次項有
  • 2014/06/02 07:57
    続けてご愛読下さっている方々に質問なんですが、このドラマのストーリー、とくに地域を愛する人たちが自分たちにできることを持ち寄って、大きな目的を達成するために協働していくという組み立てに、異論や違和感をお持ちの方はありませんか?
    このドライブの方法は、1990年代後半から2005年くらいまでの間、全国に拡大した「はりまスマートスクールプロジェクト」のネットデイ方式と呼ばれているものを原点としています。
    いまの時代に即応しないようなら、柔軟に考え直していかなくてはなりませんので、率直なご意見をお待ちしています。
    いよいよ第一部は大詰めです。いましばらくお付き合い下さい。
    次項有
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