考え方やレベルがまったく違う人たちや生活習慣そのものが異なるような人たちの集まりで合意形成を図ったり、もともと内部に利害関係や対立意識のある集団において結論を求めて議論を進めていくことに関して、過去さまざまな方法が編み出されてきた。ここで紹介する「ロバート議事法(Robert's Rules)」も、組織や会合を民主的にかつ効率的に運営するために作られた会議進行の方法論のひとつで、米国陸軍ヘンリー.M.ロバート少佐(当時)により考案、1876年に初版本が発行されて以来、米国において最も標準的かつ権威ある議事法典として各種の団体で採用されてきた。
ロバート議事法では、多様な意見が活発に交換されることは好ましいことであるとし、しかしそれによって会議が混乱し感情的な対立や意見の相違による組織の分裂に至るような事態を避けるために、小数意見を含めて、すべての意見を整理し、組織として一つの意思を形成してゆく過程を重視して細部にわたって配慮されている。
例えば、基本の三原則としてある、(1)「定足数遵守の原則」会議を開き議決を行う際に最低必要とする出席者数を定め、その数に満たなければ会合を開き採決することはできない、(2)「多数決の原則」特に規定する場合を除き出席者数の過半数の賛成が必要である。重要な議案では出席者の三分の二の賛成を必要とする旨、特別規定を設ける場合がある、(3)「少数意見尊重の原則」ある意見に複数の賛同者がつけば正式な議題としなければならない。
また、「公平」と「平等」を基本精神として、組織全体の中における構成員が持つ「4つの権利」の均衡の上に成立しているのも、特徴であると言える。
(1)「多数者の権利」表決においては、多数の者の意見を優先する
(2)「少数者の権利」少数意見を尊重し、黙殺しない
(3)「個人の権利」個人への名指し攻撃、特定人物のプライバシーに関する件には触れてはならない
(4)「不在者の権利」やむをえず出席できない者にも議決権を与える
このように、ロバート議事法が定める減速や精神は、現在の広く一般的会議に採用されている手法の原点となっている。
このような議事法が求められた背景には、米国の深刻な対立の歴史がある。そもそも多民族国家である米国では、議会で何かを決定しようとしても、生活習慣そのものが異なる人たちの会議になるため、意見が百出し、正常な議事運営ができない状態にあった。またその対立が南北戦争を代表とする内戦にまで拡大するという危機的な状況にも至っていた。そこで、原案に対する修正案が出たときの動議のやり方や会議そのもののテクニックを規定したのがロバート議事法で、優れた会議手法としてライオンズクラブ、青年会議所、商工会議所などを始めとする国際的な団体に競って採用され現在に至っている。
ロバート議事法は、団体や集団の会議を進行させるには非常に有効な手法ではあるが、「合意形成」という側面から見ると参加者全体が納得するに十分なコンセンサスが得られるのかという点において疑問が残る。限られた会議時間の中で異議も含め相当数の議題に結論を求めようとしたり、普段から一定のコミュニケーションが存在しない関係性の中で多数決による採決ありきで説得していく環境では、全体のコンセンサスを得るということは大変困難であるはずだ。