次は沖縄ですか。
それにしても、紫の上さんは計り知れない(色んな意味で)
そう言えば、私がDOCOMOのdビデオをテレビで見るときのdスティックもDCMI端子に差し込みます
同じようなものですかね。
これは無料プレゼントでした
第二十三話「かりゆしの島にいこう♪」 しばらくすると、泰子の代わりにフロアの片付けをしていたさと子と厨房で仕舞い支度をしていた政夫が、ともに地元素材の生ハムと水茄子で作ったピンチョスのプレートを手に三人に合流した。海外出張も多い高嶋と外資系IT企業で部長職まで務めた妃佐子の話しは、大学1年生のさと子にとって目から鱗の興味深いものばかりだった。話題が仕事から旅行、そしてLCCと移ってから、政夫と泰子のふるさとである沖縄がテーマとなった。 本人が「空飛ぶ兼業農家」と称している通り、会社経営と家業の農業の合間、少しでも時間ができると成田からピーチアビエーションで沖縄本島や離島に出掛けるのが高嶋の唯一の道楽だった。訪問していない離島はわずかで「おくなわ(沖縄の奥の多良間島、渡名喜島、北大東島、南大東島、粟国村を指す)」と呼ばれる離島中の離島もすべて制覇。地元の人も知らないスポットを熟知していると豪語する通り、屈指の沖縄・離島通であった。 「ミッナモーロ」のボトルを独酌で開けてしまった妃佐子が、いつも持ち歩いている大きなキャリーバッグの中から、衝撃吸収シートで大切に包装された荷物を取り出した。「赤から白とワインが続いたので、出そうかどうか迷っていたんだけど~」。赤ら顔の妃佐子は包装を解いて箱を開けた。中には「究極の食中酒」として知る人ぞ知る宮城県大崎市・新澤醸造店の「愛宕の松」が収まっていた。漆黒のラベルに金文字が鮮やかだ。 スーと入っていくのど越しのよさと食べながら口をリセットしてくれるさっぱり感に優れ「こんな飲みやすい酒飲んだことない」と専門家が絶賛する銘酒。しかし、生産本数が少ないので他府県にはほとんど出回っていない幻の酒。妃佐子は、東日本大震災の復興支援で東北に出向いた際に、直接蔵元を訪ねて入手してきたらしい。「酒米がひとめぼれ、お酒の名前がひと夏の恋って素敵でしょう♪」。まったく何を考えてるんだか~(笑)。 「ちょっと見ててくださいよ~」。興が乗ってきたところで、高嶋がUSBメモリのような小さなスティクをポケットから取り出し、おもむろに店内の壁掛けテレビのHDMI端子に取り付けた。手元のタブレットを操作するとテレビ画面に年季の入った食堂の概観が映し出された。 「えっ、前田食堂!!」と政夫が叫んだ。「前田食堂や波付食堂の肉そば」「北中そばのもつそば」「三笠やみかどのポーク玉子」「いちぎん食堂やハイウェイ食堂やステーツサイドのステーキ」「中本鮮魚店のもずくの天ぷら」「鶴亀堂の琉球ぜんざい」「三矢の紅芋サーターアンダギー」...。高嶋が自分の足で回った沖縄のソウルフードの数々である。BGMの「ゆいゆいまーる」の軽快な沖縄サウンドと一緒に「懐かしい~!!」という声が泰子からもあがった。 YouTubeなどにアップロードした自作の映像コンテンツをテレビで簡単に放映できるようにしたのは、グーグルが発売した「クロムキャスト」。小さなスティック状のクロムキャストをテレビのHDMIポートに差し込み、見たいコンテンツをモバイルアプリで選べばWi-Fi経由でテレビに映すことができる。米国では2013年7月に1本35ドルで発売されたが、日本での販売は2014年5月末になってから。少し遅れて4,200円でリリースされた。 新しい技術に敏感な高嶋は、米国出張の際にいち早くクロムキャストを入手していた。今では最近のテレビならたいてい付いているHDMI端子にクロムキャストを差し込み、スマホやタブレット、パソコンをリモコンのように使って、さまざまなネットコンテンツをどこでも簡単にテレビでプレゼンテーションできるようになった。 世界を股に掛けて仕事をしていた妃佐子は、しばらく前まで沖縄観光とはほとんど縁がなかった。前職では、那覇空港からタクシーで顧問先に出向き、そこからホテルとの往復となるかタクシーで空港に戻るという繰り返し。なんども沖縄には出向きながら、世界文化遺産の斉場御獄(せーふぁーうたき)はもちろん首里城にすら上がったことがなかった。それが最近、沖縄県が設置した地域SNSの支援をボランティアで行うこととなり、沖縄の観光情報には人一倍興味津々になっていた。 沖縄ネタではしゃぐ大人たちを前に、さと子がぽつりとつぶやいた。「沖縄ってわたしがこれまで見聞きしていたより、もっともっとずっとずっと素敵なところなんですね~。わたしも一度でいいからいってみたいな~」。妃佐子の「さとちゃんは沖縄を知らないんだ。まわりにこんなにご縁があるんだから、行くなら」の言葉に、間髪入れず政夫が珍しく「今でしょ♪」とギャグを入れたが可哀相にあまり受けなかった(笑)。 泰子が「そうよさと子ちゃん。旅行の費用はパパが出してくれるから、夏休みを使ってぜひいってらっしゃいよ♪。宮崎のお母さんにはわたしから電話して頼んであげる」と背中を押すと「ひとりじゃ心細いでしょうから、お姉さんが一緒でもいいかな?」と妃佐子がフォローする。高嶋の「おねえさん??」というツッコミに妃佐子がパンチを見舞うフリをした。 「泰子も久々に里帰りをしてみたらどうだい」と政夫が投げかけると「でもお店があるでしょう..」とやや落ち込んだ返事。「実は前から、お昼間手伝ってくれている田靡さんたちから、『奥さんをたまにはお里に帰してあげたらどう?』って進言されていたんだ。みんなずいぶんと慣れてきたから1週間や2週間だったら交代で夜も出てくれるんだって」。「嬉しいな~。みきさんたちに甘えさせてもらってもいいかな~」。泰子の顔が一気に明るくなった。こうなると話しは早い。さと子の大学が休みに入る7月第4週の月曜から四泊五日の沖縄旅行が決まった。追試は大丈夫だろうか..(笑) 「ぼく、その日程は米国出張が入っているんだけど...」と高嶋が申し訳なさそうに告げると「MAHALOは最初から誘ってないでしょ。わたしと泰子とさと子ちゃんのおんな三人旅。あなたには旅行の行程を考えてもらって、オリジナルのガイドブックを作ってくれればいいの」。有無を言わさぬ口調で妃佐子からの命が下りると、高嶋は反射的に「はい、喜んで♪」と答えていた。美味しいワインのおかげか、短時間の間にずいぶんとふたりの力関係が決まってしまったようだ。この夜、楽しい笑い声が漏れていたシェ・マエサトの灯りが消えたのは、もう日付が変わろうとする時間になっていた。 つづく この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑) |