物語だと、地理的にいじれちゃうから良いですね♪
いろりさんのところへ泊まれば良かったなぁ。
地理的にちょちょいとできれば…
第二十二話「恋と情熱と友情の同窓会」 高嶋たちの他にはまだ一組しか席についていなかったが、全てのテーブルに食器のセットと予約席のプレートが並べられている。どうやら今夜は満席らしい。一度、奥に入っていた泰子が、ワゴンにワインのボトルを乗せて高嶋たちのテーブルに運んできた。「本日はご来店ありがとうございます。このボトルはシェフからのサービスです。お口にあえばいいのですが。どうぞお召し上がり下さい」。やや他人行儀にみえる泰子はまだ少し怒っているようだ。 ワインクーラーから取り出されるボトルのラベルが見えると、ワインソムリエの妃佐子が歓声をあげた。「イエニスタ・ロコ・ブランコ2013年!」。柑橘系を思わせるすっきりとした辛口のスペインワインでファンも多い。味もさることながら、このワインの特徴はそのボトル。裏ラベルの透明になっているハート部分からボトルの中を覗くと、内側に“La Pasion Va Por Dentro(情熱を内に秘めて)”の文字が。いつの間にか横に来ていたシェフの政夫が「みなさんの突然で懐かしい同窓会のために、この一本をお選びしました♪」と告げ、泰子が高嶋のグラスに秘めた情熱を注いだ。 燻製したホタルイカをフライパンで温めフランボワーズとソテーしたアミューズ「ホタルイカの燻製~フランボワーズ風味サラダ仕立て~」をテーブルに運んできた泰子は、この日の顛末を妃佐子に訊ねた。高嶋と妃佐子のふたりは半年ほど前、フェイスブックで再会していた。「知り合いかも?」に出てきた名前に覚えがあってプロフィール情報を見て、妃佐子が高嶋であることを確信したらしい。 妃佐子から友達依頼をかけて、「MAHALOキャプテンですよね」とメッセージを送ると5分も立たないうちに「紫の上さま、お元気ですか?」と大学時代のハンドルネームで返信があった。何通かメッセージのやりとりをしている間に、高嶋が成田空港近くに事務所を開いてIT関係の仕事をしていることがわかった。幕張に住む妃佐子とは同じ千葉県ということで、また機会があれば会いましょうと約束だけして、たまに書くフェイスブックのトピックにお互い「いいね!」をするだけの日々が過ぎていった。 そんなある日、高嶋から妃佐子にメッセージが入った。「紫さんが管理人をしている地域SNSのクーポンサイトに、シェ・マエサトってレストランのディナークーポンが出ていたんだけど、ひょっとしてやすりんのお店かい?」。これまでのやりとりで高嶋には泰子の近況を少し話していたので、ソーシャルメディアサーフィンをしていて目に止まったらしい。妃佐子がオープンの様子を伝えると「ぼくは開店祝いにいけてない~」と拗ねる高嶋。なだめるように、一緒にディナーを食べに行こうというプランがトントン拍子で決まり、高嶋が速攻でクーポンを購入し、電話予約まで済ませた。泰子が何も知らないうちに計画は進んでいたのだ。 前菜は「稚鮎のフリット~きゅうりのソースとキウイの泡、麦のサラダをあしらって~」。地元揖保川の稚鮎を、酸味のあるキウイのソースとさっぱりしたキュウリのソースの2つの味わいで楽しめるプレートだ。「明日は定休日なので、もしもよかったら閉店後までゆっくりしてもらえないかな~。わたしも少し一緒に飲みたいし~♪」。今夜の泰子は気もそぞろ、少し仕事が上の空という感じだ。 「今夜のお泊まりは?」と聞くと高嶋が「川向こうのホテル日新会館だよ。これも同じクーポンで平日限定という条件だけどすごくいい部屋がとてもお得だった」と答えた。そこで妃佐子が「MAHALOは、一晩中ジオラマの鉄道模型で遊べるから決めたんでしょう」と応じると「うん、こんなホテル日本中探してもどこにもないからね」と話し、そこからしばらくは鉄道模型の魅力をひとりで熱く語った。 二皿目の前菜は「フォアグラのポアレ~サマートリュフ風味の半熟卵~」、続く魚料理は坊瀬漁港の前どれスズキを使った「鮮魚のデュグレレ風~じゃがいもとレモンのニョッキ~」。肉料理として、三田牛と多良間島黒糖を使った「仔牛ハラミのタリアータ黒糖バルサミコソース」と料理は進んだ。この間に「イエニスタ・ロコ・ブランコ2013年」が空となったので、妃佐子は「ミッナモーロ2010」というイタリアワインを選択した。「ミッナモーロ」とは「恋する」という意味。舌触りは滑らかでタンニンと酸が柔かく、心地よいカカオの様な苦味を残しながら余韻が続く人気の赤ワインだ。ゆっくりスマートにワインを楽しむ高嶋と、独酌で大胆にグラスに注ぎぐいっとあおる豪快な妃佐子がとても対照的なのが面白かった。 「オレンジのプリン、紅茶のシフォンとミルクのアイス」という自家製デセールが運ばれてきたときには、満席だった他の客はすでにテーブルをたち、最後の初老のカップルのふたりがレジで泰子に料理の御礼を述べていた。お金を払って食べに来たお客さんから自然に感謝の言葉が出るのは、料理にかけた政夫の思いがしっかり伝わったからだろう。「お待たせしました♪」。泰子は腕まくりをして妃佐子の隣に座り、高嶋は半分くらいになった「ミッナモーロ」を泰子のグラスに注いだ。 つづく この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑) |