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2014年06月23日(月) 
第二部『人がつながり、ことが創発する、わくわくするわたしたちのまち』

第二十一話「懐かしい再会」

「ねえパパ、今夜ディナーで予約が入っているタカシマさんってお客さん、パパのお友達?」。予約ノートを開いて前里泰子(46)が朝どれの地元野菜とにらめっこして調理法を考えている夫の政夫(50)に尋ねた。「クーポンで来てくれる千葉の人だろう。ぼくにはそんな遠くに知り合いはいないけどな。どうしてうちの店を見つけてくれたのか不思議だよね」。政夫はまだ十分に土が落ちていない野菜をシンクに浸しながら答えた。「タカシマサダオって名前どこがで聴いたような気がするの。有名人か芸能人の同姓同名かしらね」。ふたりはランチタイムの準備に取りかかった。

クーポンがスタートして2ヶ月。同じマンションに住む大学生の玉田さと子(18)たちが発案した、平日のみ15時から18時までの間の120分、完全予約制・一日3組限定、当店自慢の「シェフお任せスペシャルコース」を4,000円(通常5,000円)で提供する「ちょっと早めのディナータイム(EDT:early dinner time)」は大当たりで、今月から一日5組に増やしても予約で満席になる日が多いくらいの盛況になった。

嬉しいのは、来られたお客様にお渡しする3ヶ月有効な割引チケットを持ってディナータイムにリピートしてくれる常連客が増えてくれたこと。馴染みになったお客さんにゆっくりくつろいでもらい、料理やお酒や地域の話題で盛り上がり、美味しい食事と一緒に楽しんでもらう。オーナーシェフの夢が実現しつつあった。

大学の授業でも使っている地域SNS「ひょこむ」のユーザであるさと子が推薦者になって、「シェ・マエサト」も3ヶ月有効の平日ディナークーポンを試験的に4週間予定で販売した。商品は「シェフお任せスペシャルコース」で、割り引き率は2割とEDTと同額、最低20枚、最大200枚、一度に2枚以上利用で一日3組に限定した。最初の数日はパラパラと購入申し込みがある程度だったが、5日間で最低枚数をクリアしクーポンが成立してからは一気に購入数が急増、販売開始から2週間で最大数200枚(100組)に到達し、ランチで有名なレストランのディナークーポンは売り切れた。

クーポンで値引きをしたからといってクオリティを落とすつもりは毛頭ない。全ての品質を維持しながらも来客数の増加がドリンクの注文増に直結し、店舗全体しては大幅な増収増益を実現することとなった。また、ディナータイムのお客さまの全てに、泰子のアイデアで2割引になる3ヶ月有効な割引チケットを渡したことが、クーポンを介さないリピート客の確保に大きな効果があった。クーポンサイトのお店やコースメニューの紹介、さと子がシェフの人となりを中心に推薦推薦文も話題になっていて、来店客から「さと子さんってどなた?」という質問が出るくらい。掲載枠が限られているフリーペーパーと異なり、伝えたい情報がきちんと整理してわかりやすく発信できるので、EDTのPRを含めクーポン販売という直接的利益を遙かに凌ぐ副次的効果が見える化された。

いつもと同じようにこの日もEDTのお客様は17時半には引けて、ディナータイムへの入れ替えはスムーズに進んだ。18時を少し過ぎた頃、「カラ~ン♪」とエントランスベルが鳴り、品の良いスーツに身をまとめた長身の男性がひとり入ってきた。「予約をしていたタカシマですがよろしいですか?」。フロアで予約客のテーブルを準備していた泰子には、落ち着いたよく通る声に聞き覚えがある気があった。「いらっしゃいませ。遠くからようこそお越しくださいました」。深く立礼をしたあと顔をあげて、泰子は腰を抜かすほど驚いた。小麦色に日焼けした精悍な容貌に印象的な真っ白な歯。がっしりとした体躯にしなやかな物腰。その男こそは大学で女学生の憧れの的だった二歳年上のテニス部のキャプテン・高嶋貞夫(48)その人だった。

「ちょっとこの辺がゆったりしてきたけど、まだ週2回はテニスをやってるよ」。高嶋はお腹を両手でさすりながら懐かしそうに泰子に語りかけた。「やすりんは昔と全然変わらないね。可憐でキュートな君は、いつだってみんなの人気者だったなぁ」。高校まではずっと沖縄で女子校通いだったので、泰子にとって高嶋は、はじめての憧れの異性であり、最後まで思いを伝えることができなかった初恋の相手だった。

ついつい25年前にタイムスリップして、泰子は頬を赤らめた。「どうしてここへ?」と訊ねるとすかさず、高嶋の後ろに隠れていた女性が飛び出してきた。「やったね。やすりんMAHALOキャプテンのことをちゃんと覚えてくれてたでしょう。やっぱりわたしの勝ち♪」。得意満面の笑顔でガッツポーズをしたのは、泰子の大学時代からの無二の親友である小島妃佐子(45)だった。

エントランスがやけに騒がしいので、厨房から政夫が様子を見に出てきた。「やあ、妃佐子さん!ご無沙汰しています♪」。妃佐子とはシェ・マエサトのオープン以来の再会だった。「そちらの男性は?」と政夫が訊くと妃佐子が「泰子さんの初恋のカレです!」と言ったものだから、泰子が少し緩んだ妃佐子の脇腹を掴んで強くひねった。「いた~い!!」と悲鳴をあげる妃佐子を笑いながら、政夫は「それはそれは、ようこそいらっしゃいました」と満面の笑顔で高嶋を迎えた。つきあい始めてまもなくの頃、大学生の泰子から憧れの先輩がいることは聞いていたので政夫はまったく驚かなかった。「ご覧の通り狭い店ですが、どうぞ心置きなくおくつろぎ下さい」。政夫の言葉に促された泰子は妃佐子の脇腹に今度はグーで軽く一発パンチを入れたあと、高嶋ともどもセットしてある奥の予約席に案内した。

つづく

この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑)

閲覧数499 カテゴリ日記 コメント0 投稿日時2014/06/23 05:40
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