こたつさん、物書き始められたんですか?
なんだか、本格的ですね
『みんなが嬉しい街おこしを目指して』 第一話「街角のレストラン」 宮里政夫(50)は、イタリアンレストランのオーナーシェフ。5年前に繁華街から少し離れた閑静な住宅街に建つマンションの1階で店を開く。店舗はオープンな厨房を囲むように配置されたカウンター席が15、4人がけのテープル席が8つ。40人も入れば満員になる小さなレストランだ。 政夫は地元の高校卒業後、沖縄から大手広告代理店に勤める兄を頼って本土に渡り、フレンチや日本料理店で料理人の修行をしたのち、35歳の若さで瀬戸内海を一望するこの街一番のリゾートホテルの料理長に就任。地元の食材を活かした創作イタリアン料理としてしばしばマスコミの取材も受けていた。 レストランを守るのは看板女将の泰子(47)。政夫が心斎橋の老舗寿司店で板前修業をしていたときに、誕生日のお祝いに友人たちと一緒に客として政夫の前のカウンター席に座ったのが、大学4年生の泰子だった。言葉のなまりから同郷であることを気づいたふたりはすぐに意気投合。後日、友人のひとりから住所を知らされ、どちらからともなく文通が始まった。 高校出で修行中の料理人と、お役所勤めで厳格な家庭に育ったお嬢さん。立場も境遇もまったく違う二人の仲は、知らない土地での孤独な生活もあって急速に接近していく。政夫が10年間の修行を終えて、29歳でホテルに就職するのを機会に、沖縄に戻っていた泰子を呼び寄せて、ふたりの新生活が始まった。 ふたりは「いつかちいさなレストランをもとう♪」という夢を目指して、政夫はしばしばホテルに泊まり込みながら料理に明け暮れ、泰子は得意の英語を活かして自宅で子どもたちを指導する日々が続いた。しばらくして長女の幸枝と次男の大知という一女一男を授かり、政夫も料理長に昇進。ささやかながら幸せな家庭を築いていた。 最初の転機は政夫がホテルの料理長に就任してから。若い頃からさまざまな料理の修行をこなし、良質の素材を優れた技術で芸術のように仕上げる腕と知識と直感を養ってきたことが、ホテルの料理全体を差配できる立場になって一気に花開いた。よく夫婦でホテルを利用してくれていた大学教授の紹介で、地域活動の仲間として友人たちを紹介してもらっていたのである。その中に、農業に従事する若者たちを養成しながら地場の新鮮な野菜を提供している「夢工房」、卓越した目利きでこだわりの牛肉や豚肉を提供しブランド肉の確立に汗を流す「播州ハム」、瀬戸内前どれの魚介類を超新鮮な状態で手渡ししてくれる坊瀬の「漁労長」。それぞれがおのおのの分野で地域の食材に夢を託す優しく熱く立派な人たちだった。 瀬戸内海の夕暮れに囲まれて、地元の新鮮な素材を優れた技術で見事に調理して食べさせてくれるホテルの創作イタリアンは、ほどなく評判のレストランとして有名になった。遠くから夫婦や家族連れで訪れてくれる常連客も増えて、政夫の名声は業界の中で高まっていった。順風満帆に見えた料理長時代であったが、子どもたちが成長してくるにつれて、夫婦がずっと持ち続けてきたオーナーシェフの夢が、だんだんと脳裏の中で大きくなってくる。弟子と呼べる若い料理人も育ち、そろそろホテルの仕事も任せられるようになってきていた。 つづく この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑) |