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2014年07月08日(火) 
第三十四話「美ら島おこし人たちの交流会」

旧平良市の中心部である「下里」「西里」は宮古島随一の繁華街。民芸品工房や雑貨店、宮古島ならではの小物を扱う店舗が軒を並べる。「このお店は大丈夫!」と池間が推薦する店舗では、本土では見ることのない珍しいアクセサリーがいっぱい。おまけに「値札間違ってない?」と心配になるほど値段も手頃。さと子はサークール友達への土産をさっそくまとめ買いしていた。ショッピングを楽しんでいるとあっという間に時間が過ぎて、「ぶんみゃあ」での交流会の開始が迫ってきた。後ろ髪をひかれながら西里の繁華街をあとにした三人は下里に戻った。

「オンタイムです!」とさと子が時計を見ながら池間に報告する。「..ということは、ずいぶん早いはずよ」と笑いながら店の暖簾をくぐると、奥の大きなテーブル席に松原敬子(50)がぽつんと座っていた。「松原さん、お忙しいのに今夜はどうもありがとうございます」と池間が挨拶すると、「さすが本土の人は時間ぴったりね。沖縄っていいかげんでしょう。それが私たち夫婦にはぴったりだったんだけど」と語り妃佐子に名刺を差し出した。松原の名刺には、城辺(ぐすくべ)グリーンツーリズム 「さるかの会」事務局長とある。本土から彦文と夫婦で宮古島市城辺地区に移住。ご近所の農家の人たちと仲良くなるにつれて、「はじめて来たのにホッとする、はじめて来たのに懐かしい、なんにもなくて、なんでもある」という宮古島を本土の若者たちに第2の故郷にしてもらおうという活動を始めた。

「全国から修学旅行生や一般の方たちを受け入れて、農作業や島ならではの文化や生活を、宮古島の農家とのふれあいの中で体験し学ぶことで、人と人とが知り合い、親しくなり、家族になる」ことを目指して、31軒の農家と2008年に研究会を立ち上げ、滞在型体験観光の民家体験事業を本格的にスタートした。初年度は大阪府立の高校の修学旅行生260名を2回にわけて受け入れ、翌年は2校400人と増え、6年目となる昨年度は90戸が33校9,500人を受け入れるほど拡大している。「さるかの会」としては、営業活動をほとんど行っていないが、農家民泊を体験した子どもたちが宣伝マンとなってPRを続けて規模がどんどん拡大しているのも、この取り組みの優れたところだ。

そうこうしていると幹事役である役場の平山茂治(52)が汗をふきふき店に入ってきた。自宅から送ってもらった泰子もテーブルに加わった。「松原さん、今日は負けましたね。どうしてこんなに早いんですか~?」と問いかけると「ちょうど修学旅行生の見送りがあったの。みんな帰りたくないって泣くので毎度こちらまでもらい泣き。きっと一生の思い出にしてくれるわね。外はこの暑さなんで、早めにお邪魔して涼ませていただいてました。それがなければうちなータイムよ」と笑った。

宮古島の気候は亜熱帯そのもの。最高気温は連日猛暑日、最低気温は28度から下がらない。人が暮らしていけるのは、海からの風が島を吹き抜けてくれるおかげである。「さあ始めましょうね~」と平山が声を掛けると数日前に二十歳になったばかりのさと子が一番に「オリオンドラフト!」と手を挙げた。「将来が楽しみ♪」。妃佐子のつぶやきには実感がこもっていた。

1時間ほど遅れて予定されていたメンバーがほぼ揃い「ぶんみゃあ交流会」が幕を開けた。参集したのは松原と同じように島おこし活動を実践する人たちで、普段から個々には交流はあるものの一同に会する機会は珍しい。島酒も潤滑油の役割を担って、お互いの取り組みの情報交換から、活動や人材の融合まで自然と話題は進化していく。ステージで島唄のメロディが三線で奏でられると、全員が揃って手拍子を交えたり、踊り出したり。これが会話を醸成する絶好のインターバルになっていた。「遅れてごめ~ん♪」。店の玄関には、大柄の男性が立っていた。「なーりー、本当に来てくれたんだ~!」。池間は周囲を気にもせず歓声をあげた。

「親分から呼び出しがかかったら知らないふりなんてできませんやん」。なーりーこと高田俊誠(45)は、池間のことをこう呼ぶ。トトロのような大きな身体とは似つかぬ心優しく繊細な高田は、竹富島出身ということもあり、高校に入ってからはなかなか友達が出来なかった。しかし、柔道部の応援をしてくれていた2級上の池間のいろいろ世話を焼いてくれたおかげで学校になれることができたのである。その後、柔道を続けるために天理大学に進学、輝かしい戦績を残して東京の大手警備保障会社に就職した。しかし、都会での殺伐とした生活にどうしても馴染めず、地元に戻って今は八重山郡竹富町役場の職員として働いていた。「明日午前中は半休にして飛んできました」。屈託のない笑顔で語る高田は、あっと言う間に交流会の輪の真ん中に吸い込まれていった。

つづく

この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑)

閲覧数585 カテゴリ日記 コメント0 投稿日時2014/07/08 05:58
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